りなさりませぬか」
「突然異な事を申す奴よ喃《のう》。叱りはせぬよ、叱りはせぬよ」
「きっとでござりまするな」
「ああ、きっと叱りはせぬよ。いかがいたした」
「では申しまするが、わたくし今、一生一度のような悲しい目に、合うているのでござります……」
「なに?一生一度の悲しい目とな? 仔細は何じゃ」
「その仔細が、あの……」
「いかがいたした」
「お叱りなさりはせぬかと思うて恐いのでござりますけれど、実はあの、お目をかすめまして、この程から、さるお方様と、つい契り合うてしもうたのでござります」
「なに! なに! ほほう、それはどうも容易ならぬ事に相成ったぞ。いや、まて、まて、少々退屈払いが出来そうじゃわい。今坐り直すゆえ、ちょッとまて! それで、なんとか申したな。この程からさるお方様と、どうとか申したな。もう一度申して見い」
「ま! いやなお兄様! そのような事恥ずかしゅうて、二度は申されませぬ」
「ウフフ、赤くなりおったな。いや、ついその、よそごとを考えていたのでな、肝腎なところをきき洩らしたのじゃ。そう言い惜しみせずに、もそっと詳しいことを申してみい」
「実はあの、さるお方様と、お兄
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