と抉《えぐ》り彫られて、凄絶と言うか、凄艶と言うか、ちらりとこれを望んだだけでも身ぶるい立つような見事さでした。
と見るや不審です。
道場荒しの赤谷伝九郎と言われた剣客らしい奴が、じろじろとその眉間の傷痕を見眺めていましたが、おどろいたもののごとくに突然ぎょっとすると、うろたえながら下知を与えました。
「悪い奴に打つかりやがった。退《ひ》けッ退けッ」
しかも自身先に立って刄を引くと、周章狼狽しながら、こそこそと群衆の中に逃げかくれてしまいました。
二
まことに不思議と言うのほかはない。恐るべき傷痕の威嚇と言うのほかはない。――いや、不思議でもない。不審でもない。当然でした。赤谷伝九郎ならずとも、眉間のその三日月形がちらりとでも目に這入ったならば、逃げかくれてしまうのが当然なことでした。なにをかくそう、このいぶかしかった若|武者《むしゃ》こそは、これぞ余人ならず、今江戸八百八町において、竹光《たけみつ》なりとも刀差す程のものならばその名を知らぬ者のない、旗本退屈男《はたもとたいくつおとこ》と異名《いみょう》をとった早乙女主水之介《さおとめもんどのすけ》だったから
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