郎ですぜ。あの野郎が後楯《うしろだて》になっていたとすりゃ、いかな若衆でも敵《かな》うめえから、早くなんとか救い出してやっておくんなせいな」
「ほほう、あの浪人者が赤谷伝九郎か、では大人気ないが、ひと泡吹かしてやろうよ」
それを耳にすると、初めて宗十郎頭巾がちょッと色めき立って、静かに呟きすてながら、のっそり人垣の中へ割って這入ると、騒がず、若衆髷をうしろに庇ったかとみえたが、おちついた錆のある冷やかな言葉が、ゆるやかにその口から放たれました。
「くどうは言わぬ、この上人前で恥を掻かぬうちに、あっさり引揚げたらどうじゃ」
「なにッ。聞いた風な白《せりふ》を吐かしゃがって、うぬは何者だッ」
「そうか、わしが分らぬか。手数をかけさせる下郎共じゃな。では、仕方があるまい。この顔を拝ましてつかわそうよ」
静かに呟き呟き、おもむろに頭巾へ手をかけてはねのけたと見るや刹那! さッとそこに、威嚇するかのごとく浮き上がった顔のすばらしさ! くっきりと白く広い額に、ありありと刻まれていたものは、三日月形の三寸あまりの刀傷なのです。それも冴《さ》え冴えとした青月代《あおさかやき》のりりしい面に深くぐい
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