似た顔どうしの別人だったのです。
「野郎ッ、化かしやがったね。火の見の下であっちが死んだら、こっちも煙のように消えてなくなったんで、てっきり一匹と思っていたんだ。ちくしょうめ、よくも今まで迷わしやがったね。それにしても、切ったはだれなんだ。お駒! だれが殺したんだ、やい、お駒!」
牙《きば》をむかんばかりにしてほえたてている伝六の横から、名人は射すくめるような目をむいて、じっとお駒の顔をにらみすえました。
血いろはない。心も魂も、血も感情も、ひえきってしまったように冷然とあしらっていたさすがのお駒も、この動かせぬ事実をあばき出されては、もう隠しきれなくなったとみえて、まっさおになりながら震えているのです。
「ふふん、そうだろう。飼いねこに、いや、飼いやまがらに手をかまれるたアこのことさ。とんだやつが、ぴょんぴょんと飛んだばっかりに、とんだところへもみじをつけて、おきのどくだったな。――その手に覚えがあるはずだ。受けてみろッ!」
えぐるように叫んで、ぱっと大きく名人が泳いだかと思うと、お駒目がけてまっこうから襲いかかりました。
しかし、お駒もさる者、せつなにするりと体をかわすと、
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