あざやかともあざやかな手の内でした。
開いて構えたは、こぶし上段、――すいとその手が中段に下がったかと思うと、位もぴたり、一刀流か神伝流か、中段青眼に位をつけた無手の構えには、うの毛でついたほどのすきもないのです。
見ながめながら、名人が莞爾《かんじ》と大きく笑いました。
捕《と》るとみせて、襲ったのは、実を吐かせるための右門流だったのです。
「その手のうちだ。みごとな構えだ。どこのだれに習った何流か知らねえが、その構え、その位取り、その身のさばきぐあいなら、男のふたりや三人、切ってすてるにぞうさはねえはずだ。どうだえ、お駒、覚えがあろう、むっつり右門の責め手、たたみ吟味は、かくのとおり味がこまけえんだ。もう、知らぬ存ぜぬとはいわさねえぜ。どろを吐きな! どろを!」
「…………」
「音蔵の切り口もすぱりと一刀、今夜の火の見のあの御家人もすぱりと一刀、この仏壇の中のやつもすぱりとひと太刀《たち》、うしろと前と相違はあるが、三人ともみごとな袈裟《けさ》がけの一刀切りだ。腕のたたねえものにできるわざじゃねえ。このお位牌《いはい》もお武家筋、おまえの手の筋もお武家筋、――やまがら使いじつ
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