こま》!」
「…………」
「お駒といっているんだ。聞こえねえのか!」
 しかし、お駒は、血も熱もしぼりとられた、耳のない人のようでした。ふり向きもしないのです。返事もしないのです。名人の鋭い声もそしらぬ顔に、黙然とすわったまま、青い手の中のほそいむちを、ゆらりゆらりと動かしました。
 右へ動けば右へ飛び、左へ動けば左へ飛んで、こわいほどにも人慣れのしたやまがらが、手のむちの動くたびにその影を追いながら、ぴょんぴょんとおどり歩きました。とみるまに、むちが大きくゆれたかと思うと、やまがらもまたピョンと大きく舞いながら、お駒の肩へ飛び移りました。
 チュウチキ、チュウチキさえずりながら、しきりとなにかお駒の耳に話しているのです。
「やめろッ」
「…………」
「用があるんだ。尋ねたいことがあるんだ。鳥をしまいなよ!」
「…………」
「さっきの野郎は、どこへ消えてなくなったんだ」
「…………」
「口はねえのか! お駒! 返事をしろ! 返事を!」
 だが、お駒はちらりと横目で見あげて、うっすらと笑ったまま、そしらぬ顔でまたゆらり、ゆらりとむちを動かしました。
 やまがらがまた慣れきっているのです。
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