じゃあるめえね」
「ひっぱってみる暇があったら、あっちへいったほうがはええや。ついてきな!」
しかって、名人はまっしぐらにお駒のうちを目ざしました。疑問はそれです。同一人ならいるはずはない。別人だったら、ふたりだったら、あるいはまだお駒のうちに似た顔のあの町人が、とぐろを巻いているかもしれないのです。
しかし、はいるといっしょに、ふたりは目をみはりました。
いない。――似た影も、それらしい着物のはしも、ぱったりこの世から消えてなくなりでもしたように、どのへや、どの座敷のうちにも見えないのです。
かわりに、お駒がぽつねんとただひとり、奥の茶の間のまんなかにすわっているきりでした。おどろきも、悲しみも、うろたえも、ろうばいも、なんの感情もない人のように、青ざめた顔をしょんぼりと伏せながら、ほのぐらい灯《ひ》をあびて、黙々とすわっているのでした。
しかし、そのほそい青みすんだ手には、ほそい竹むちがあるのです。
やまがらを使うむちでした。
ゆらりと、畳の上に、ほそいむちの影が流れたかと思うと、あいていたかごの中から、ぴょんぴょんと、すき毛の美しい小鳥の影が飛び出しました。
「駒《
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