ひた、ひた、と宵の表へ駆けだしました。音蔵と同じところで人が切られたと呼んでいるのです。しかも、同じかっこうをして切られていると叫んでいるのです。なるほど、北松山町の通りを、火の見やぐら目ざしながら走りつけてみると、もうあたりは、いっぱいの黒だかりでした。
 必死とその群衆を追い散らしている自身番の御用ちょうちんに、ちらりと目まぜを送りながら、面を隠すようにして、火の見の下へ近づきました。しかし、同時に右門も伝六も、おもわずぎょっとなりながら棒立ちになりました。
 うつ伏せに倒れているむくろの頭に、見たような五分|月代《さかやき》がつやつやと光っているのです。傷も、音蔵そっくりのうしろ袈裟《けさ》でした。ぐさりとみごとな一刀切りでした。
「顔をみせろ」
 ぐいと、自身番の小者がねじむけたその顔を見るといっしょに、ふたりはさらに愕然《がくぜん》と二度おどろきました。まさしく、あの御家人なのです。ひとりか、ふたりか、定めのつかぬあの顔が、白目を空《くう》に見ひらいて、無言のなぞの下に、無言の死をとげているのです。
「ちくしょうめ。人をからかったまねしやがるね。毛はどうだ。毛は! 張りつけ毛
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