お駒のふきげんをけんめいに慰めようとでもするように、きょときょとと身ぶりおかしく首をふりながら、あちらへ、こちらへ、しきりとおどり歩きました。
腹をたてたのは伝六です。
「じれってえね。このつら構えは、ひと筋なわでいく女じゃねえんだ。ものをいわなきゃいうように、ぎゅっとひとひねり草香のおまじないをしておやりなせえよ!――やい! 駒! 口を持ってこい! 口を!」
「…………」
「むかむかするね。ひとひねりひねりあげりゃ、どんな強情っぱりでも音をあげるにちげえねえんだ。草香は春さきききがよし、女ならばなおききがよしと、物の本にもけえてあるんですよ。甘いばかりが能じゃねえんだ。いわなきゃあっしが目にものを見せてやらあ。――ものをいえ! ものを! いわなきゃ十手が行くぞ! 十手が!」
おそいかかろうとしたのを、ひらりとお駒のむちが横に動いたかと思うと、免許皆伝どころか、実にみごとな手の内でした。いつ払いおとされたか、ぽろりと伝六の十手がもう足もとに落ちていたのです。
しかも、お駒はにこりともせずに、しんとした顔をして、ゆらりゆらりと、むちを軽くふりながら、やまがらをあしらっているのでした
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