いるのです。むろん、今の目まぜは、あっちの五分月代《ごぶさかやき》とこっちの青月代《あおさかやき》と、別人か同一人か、あっちにあの御家人がいたかどうか、それをたしかめに走らせた合い図なのでした。
しかし、伝六はいかにも不審にたえないように、必死と首をかしげているのです。男がまた、ひねっている伝六のその顔を見ながめながら、にやり、にやり、と気味わるく笑っているのでした。
尋常ではない。なにかおそるべき秘密があるに相違ないのです。
「あっしゃ、あ、あっしゃ、こ、こわくなった。ここじゃ、ここのうちじゃ、おっかなくてものもいえねえ。顔を、顔をかしておくんなせえまし……」
まっさおになって伝六が、名人のそでをひっぱりながら、ぐんぐん表へつれ出していくと、物《もの》の怪《け》を払いおとしでもするように、ぶるぶると身をふるわせました。
「どこかに水があったら、ざあっと一ぺえかぶりてえ。毛が、尾っぽの毛がそこらについているような気がしてならねえですよ。ぎゅっと一つつねってみておくんなさいまし。あっしゃまだ生きておりますかえ」
「バカだな。ひとりで青くなっていたってわかりゃしねえじゃねえか。いって
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