なことをいうな。おまえはこのうちの、何にあたるえ」
「いらぬお世話じゃねえか。親類だよ」
「なるほど、やっぱり親類か。親類にもいろいろあるが、どんな親類だ。おまえもごの字のつく親類筋のほうかえ」
「どんな筋の親類だろうと、いらぬお世話じゃねえか。ごの字とやらをつけたきゃ、かってにつけておくがいいさ」
 まるでそっくりな言いぐさでした。あっちで同じことをきかれたことも知っていて、同じことをまたあっちで答えたのも知っていて、わざとしらばくれながら同じ返事をしているようにさえも見えるのです。
 名人の目がぴかりと光って、伝六のところへ合い図を送りました。察したか伝六、風のような早さです。まっしぐらに飛び出していったのを、不思議な男がまたじつに奇怪でした。早くもなんの合い図か察しをつけたとみえて、さっと立ちあがると、さき回りをしようとでもするように、ばたばたと裏口から駆けだしました。
 いぶかしんでいるところへ、ほどたたぬまに伝六が、息を切りながら駆け帰りました。――前後して、奇怪な男もまた、ばたばたと裏口から駆けかえりました。
 不思議そうにその姿を見ながめながら、伝六がしきりと首をひねって
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