する! それが武士の娘のつとめ、いいえ、いいえ、駒も侍の血を引いた者でござります。討たいではおきませぬ!」
「どこにいるかわかっておるか」
「わかりませぬ。なれども、わかるまでは、三年かかろうと、九年かかりましょうと、必ず捜しとおして、みんごと討ってお目にかけまする! この顔がしわにうずまりましょうとも、この黒髪が雪のように変わりましょうとも、必ずともに討ち果たしてお目にかけまする! 貫いてお目にかけまする!」
莞爾《かんじ》とした笑いが、右門の顔に咲きました。
「その決心気に入った。むっつり右門、討ち貫くといったその決心を買ってやろう! 行けい! すぐ逃げい!」
「では、あの、では、では、駒を、この駒の罪をお見のがしくださるというのでござりまするか!」
「見のがそう、みごとに討ってかえるまで、罪は責むまい。四年かかるか、十年かかるか知らぬが、むっつり右門の目の黒いうちは、むっつりのこの口に錠をおろして、唖《おし》になろう。待ってやろう。――討ったら、かえってまいれよ!」
「あ、ありがとうござります……こ、このとおりでござります……」
「行け! 人目にかかってはめんどうじゃ。裏口から早く逃げい」
「参ります! 参ります……! では、ごきげんよう……」
「まてッ。だいじな品を忘れてはならぬ。置き去りにしたら、お兄君がしかりましょう。お位牌を持っていけ」
「ほんにそうでござりました。抱かせていただきまする。――おあにいさま、霊あらばご覧なさりませよ。お聞きあそばしませよ。では、では必ず捜して、必ず討って、必ずかえってまいりまする。くれぐれもごきげんよろしゅう……」
しっかと兄の位牌をその乳ぶさの上に抱いて、あわれに暗い夜ふけの町へ、ふりかえり、ふりかえり、お駒の姿は遠のきました。その姿の行くえを、影のあとを追うように、飼いならしていたやまがらが、ばたばたと悲しげに羽ばたきをつづけて、あわれにも悲しい声をあげながら、ちーちーと鳴きたてました。
あちらへまごまご、こちらへまごまごしながら、伝六が泣きなき鳥の影のあとを追っているのです。
「めそめそ泣いて、なにをやっているんだ」
「鳥がかわいそうです。せめてあっしもなにか功徳をと思って、追いかけているんですよ。――来い。来い。このおじさんだって、大きになさけはあるんだ。帰るまで飼ってあげるよ。おっかねえことはねえ。早く来
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