弟ふたりが入れ知恵したのでござります。切ったは刀であるが、匕首《あいくち》を死骸《しがい》のそばへ捨てておいたら、証拠が合わぬ、傷口が合わぬ、さすれば捕えられても白状せぬかぎり、やがてはご牢《ろう》払いになるに相違ない、ひと月か二十日《はつか》のことじゃ、牢へ行けと、そそのかしたのでござります。それゆえ、わたしもすなおに捕えられ、お牢屋へいって六十日間あのとおり――」
「よし、わかった。それでなにもかもわかった。ほんとうのかたきも討たねばならぬ、だまされたと思えばその恨みもはらしたい、討つまでは、はらすまでは罪におちてはならぬと、六十日の間、拷問、火ぜめ、骨身の削られるのもじっと忍びこらえていたというのじゃな」
「さようでござります。六十日間のお駒の苦しみ、しんぼう――お察しくださりませ。ほんとに、ほんとに、死よりもつらい苦しみでござりました。でも、ご放免になったのは身のしあわせ、まずだまされた恨みをはらそうと、――いいえ、いいえ、だまされて手にかけた音蔵さんへのお手向けに、申しわけに、兄のほうは同じ火の見の下へおびき出し、弟のほうはこの裏の井戸ばたで、みごとに切り果たしたのでござります。――なれども、兄のかたきはまだわかりませぬ。どうあっても捜して討たねばなりませぬ。捜して討ち果たすまでは、三人切ったその罪もかくして、と存じまして、さきほどからのとおり、あなたさまへもあのような強情を張っていたのでござります。――切りました。お駒は三人を、ひと三人を、音蔵さんと、似た顔のこの兄弟ふたりを、ひと三人も手にかけた罪人でござります。なんとも申しませぬ。よろしきようにお計らいくださりませ……」
 声をおとして、くずれ伏すように泣き入りました。三人をあやめた罪があるのです。しかし、兄のかたきは、捜して討たねばならぬのです。討たぬうちにまたひかれていかねばならない悲しさが心を、胸を切りえぐったものか、もだえるように身をよじりながら泣きつづけました。
 じっと見守りながら、長いこと右門も無言でした。――しかし、嗚咽《おえつ》の声が、よよと泣ききざむお駒のむせび音が、なさけの糸をかき締めたのです。
「きっと討つか!」
 刺すような声が、くずれ伏しているお駒の白い青いえり首へ飛びおちました。
「なさけをかけてやったら、きっとお兄上のかたきを捜し出して、必ず討ってみせるか!」
「討ちま
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