おろしました。案の定、このあたり評判の町医、岡三庵《おかさんあん》の前なのです。
「お越しだな! こちらへ、こちらへ。そこでは人の目にたつ。失礼じゃが、こちらからご案内申せ」
 待ちきっていたとみえて、あわただしい声といっしょに、その三庵がうろうろしながら取り乱した顔をみせると、おろした駕籠を内玄関のほうへ回させて、そのまま人の目にかかるのを恐れるようにあたふたと招じあげました。
「わざわざお呼びたていたしまして、なんとも申しわけござりませぬ。いえ、なに、じつはその、なんでござります。てまえ参邸いたすが本意でござりますが、――これッ、これッ、なにをうろうろしておるのじゃ。来てはならぬ。行け、行け。のぞくでない!」
 ことばもしどろもどろに、うろたえているのです。ひとり残らず家人の者も遠ざけて、きょときょとと八方へ目を配りながら、案内する間もおびえおびえ導いていったところは、二階の奥まった豪壮きわまりないへやでした。
 高い天井、みごとな柱、凝ったふすま、なにからなにまでが入念な品を選んだ座敷です。そのへやの床ぎわへこわごわすわると、恐ろしいものをでもしらせるように、三庵が青ざめた顔をふ
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