り向けながら、黙って床の間をゆびさしました。
血だ! 大きな床いっぱいのようにかかっている狩野《かのう》ものらしい大幅の上から下へ、ぽたぽたと幾滴も血がしたたりかかっているのです。
「なるほど、わざわざお呼びはこれでござりまするな。いったい、これはどうしたのでござる」
「どうもこうもござりませぬ。岡三庵、今年五十七でござりまするが、生まれてこのかた、こんな気味わるい不思議に出会うたことがござりませぬゆえ、とうとう思いあまって、ご内密におしらべ願おうと、お越し願ったのでござります。よくまあ、これをご覧くださりませ。天井からも、壁からも、ただのひとしずくたれたあとはござりませぬ。床にもただの一滴たれおちてはおりませぬ。それだのに、どこから降ってくるのか、このへやのこの床の間へ軸ものをかけると、知らぬまにこのとおり血が降るのでござります」
「知らぬまに降る?――なるほど、そうでござるか。では、今までにもたびたびこんなことがあったのでござりまするな」
「あった段ではござりませぬ。これをまずご覧くださりませ」
そういうまも、三庵はあたりに気を配りながら、こわごわ袋戸だなをあけると、気味わるそ
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