それもこれも、みんなこのもらい子の娘ゆえ、千萩ゆえ、いいえ、実の子に跡をつがせたい親心の迷いからでござります。お知りかどうか存じませぬが、どうした星のせいか、この千萩が人のきらう長虫をもてあそぶ癖がござりまして、せがれの三之助がこれを忌みきらい、家出してしまったのでござります。父親は、恩ある人の娘じゃ、ほかから養子をもろうて跡をつがせるゆえ嘆くにあたらないと、このように申しますなれど、わたくしから見れば、三之助は腹を痛めた実のせがれ、人のうわさに聞けば長崎で医者の修業を終えて、こっそりと江戸へ帰った由、さぞやせがれも千萩と添いたかろう、跡目をつぎたかろうと、親ゆえに胸を痛めて、できるものなら千萩に長虫遊びをやめさせようと、たびたび父親にせつきましたなれど、がんとしてお聞き入れがないのでござります。ばかりか、近いうちに千萩の養子を取り決めるような口ぶりさえ漏らしましたゆえ、女心のあさはかさに、いっそ悪いうわさをこの家にたてさせてと存じ、あのように床の間へ血を降らせたのでござります。さすれば、いつかは人の口の端にも伝わり、あそこは幽霊屋敷じゃ、血が降るそうじゃとうわさもたちましょうし、たて
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