ば養子に来てもない道理、来てがなければやがては実のせがれの三之助も跡を継がれる道理と、親心からついあのような人騒がせをしたのでござります。――お察しくださりませ。千萩はいかにも恩ある人の娘ではござりますが、やっぱり他人、三之助は実のせがれ、できるものなら、できることなら、実の子に跡を継がせとうござります……それが、それが、子を持った親の心でござります……」
 意外にも、事はやはり千萩の長虫遊びにかかわっていたのです。しかも、親ゆえの子を思う親心ゆえに血を降らしたというのです。――名人の目には、さわやかな微笑とともに、かすかなしずくの光が見えました。
「そうでござったか! よくおこころもちがわかりました。なにも申しますまい。――かかわったが縁《えにし》じゃ。てまえ取り計らってしんぜよう。千萩どの!」
 最後まで心づかいがゆかしいのです。おどろきと悲しみに打たれながら、ついたての陰にしょんぼりとたたずんでいた千萩のそばへ歩みよると、しずかにさとすように声をかけました。
「長虫の膚なぞより、人の心は、人の膚はもっとあたたかい。そなた、三之助どのがいとしゅうはござらぬか」
「…………」
「アハ
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