って、まず秘密の壁をつくっておくと、静かにあびせました。
「これが右門流のつりえさだ。よくおわかりか。ゆうべおそくにわざわざやって来て、こっそりとあの血がめのふたへうるしを塗っておいたんだ。そのふたにさわったからこそ、そのとおりうるしにかぶれたんでござろう。なに用あって、あの血のかめのふたをおあけなすった」
「…………」
「いいませぬな! 情けも水物、吟味|詮議《せんぎ》も水物だ。手間を取らせたら、いくらでも啖呵《たんか》の用意があるんですぜ。ただの用であのかめのふたへさわったんではござんすまい。たびたび二階の床の間へ血が降っているんだ。そのうるしかぶれがなにより生きた証拠、すっぱりと、ネタを割ったらどうでござんす」
「わ、わかりました……なるほどよくわかりました。この証拠を見られては、もう隠しだてもなりますまいゆえ申します……申します……」
 名人に責めたてられてはと、覚悟ができたと見えるのです。たえかねるようにそこへ泣きくずおれると、老いたる母親は涙にしゃくりあげ、しゃくりあげ秘密を割りました。
「も、申しわけござりませぬ。人騒がせのあの血をまいたのは、いかにもてまえでござります。
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