血をとりにいく懐剣かもしれないのです。
 生き血を盗みに行く娘。
 犬の血か? 人の血か?
 左右をすかしつ、見つつ、人目を恐れるようにひたひたと急いでいく様子は、ともかくもなにか大きな秘密を持っているにちがいないのです。
「だいじなどたん場だ。声を出したらしめ殺すぞ」
「だ、だ、だ、だいじょうぶ。なんだか変なこころもちになりやがって、出したくとも、で、で、出ねえんですよ……」
 震え声にもうちぢみあがっている伝六を従えながら、注意深く影を隠してふたりのあとをつけました。

     5

 ひと曲がり、ふた曲がり、三曲がりと曲がって、忍びに忍びながら、ふたつの影は、通り新石町をまっすぐに柳原へかかりました。
 右は籾倉《もみぐら》、左は土手。
 さびしいその柳原堤に沿って下ると、和泉橋《いずみばし》です。櫃《ひつ》をかかえた影を先に、二、三尺離れて女中の影がこれを守りながら、ふたりの女は、その和泉橋からくるりと左へ折れました。
 同時のように、ふたりは、にわかにあたりへ注意を配りはじめましたが、目ざした場所が近づいた証拠なのです。
 と思うまもなく、ふたつの影は、そこの松永町《まつな
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