がちょう》の横通りをはいった福仙寺《ふくせんじ》の境内へ、ひらひらと吸われるように駆けこみました。
「ちくしょう。墓だ! 墓だ! 新墓をあばいて、死人の血を絞りに来たにちげえねえですぜ」
「黙ってろい。しゃべらねえという約束じゃねえか。聞こえて逃げたらどうするんだ」
「だ、だ、だまっていてえんだが、あんまり気味のわりいまねばかりしやがるんで、ひとりでに音が出るんですよ。埋めたばかりの死人なら、血の一合や二合絞り取れねえってえはずはねえんだ。きっと、新墓をねらいに来たんですぜ」
 だが、ふたりのはいっていったところは、意外なことにも本堂なのです。しかも、ここへ来ればもうだいじょうぶといわぬばかりに、足音さえも高めて、須弥壇《しゅみだん》の横からどんどん奥へぬけると、かって知ったもののように、がらがらとそこの網戸をあけながら位牌堂《いはいどう》の中へはいって、ぴたりとまた戸を締めきりました。
 中にはうすぼんやりとお燈明が二つともっているのです。戸もまた板戸ではなく網戸なのです。のぞけば網目を通して、おぼろげながらも中の様子が見られたが、しかし、うっかりのぞいたらこちらの顔も見つけられる危
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