天神まつりにはぜひ来いと、わざわざねんごろなお使いをくだすったんじゃねえですか。のっぴきならねえ用でもあるなら格別、そうしてごろごろしている暇がありゃ、両方へ二、三べんいってこられるんですよ。じれってえっちゃありゃしねえ。日ぐれをみていたら、何がいってえおもしれえんです」
「…………」
「え! だんな! ばくちにいってらっしゃい、女狂いにいってらっしゃいというんじゃねえですよ。親は子のはじまり、師匠は後生のはじまり、ごきげん伺いに行きゃ先生がたがよぼよぼのしわをのばしてお喜びなさるから、いっておせじを使っていらっしゃいというんだ。世話のやけるっちゃありゃしねえ。そんな顔をして障子とにらめっこをしていたら、何がおもしれえんですかよ。障子には棧《さん》はあるが、棧は棧でも女郎屋の格子《こうし》たア違いますぜ。それをいうんだ。それを!」
「…………」
「じれじれするだんなだな。なんとかいいなさいよ」
 ことり、とそのとき、何か玄関先へ止まったらしいけはいでした。どうやら、駕籠《かご》らしいのです。と思われるといっしょに、呼ぶ声がきこえました。
「お待ちどうさま。お迎えでござんす……」
「そう
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