したぞ」
「なに! 雪!――そうか! 雪で死んだと申されるか。道理でのう。凍え死んだ者はやけどそっくりじゃとか聞いておったが、雪か! 雪であったか……!」
いまさらのように目を丸めました。――献上雪は加賀百万石の名物、同時にまた江戸名物の一つです。将軍家とても夏暑いのにお変わりはない。そのお口をいやすために、加賀大納言が、加《か》、越《えつ》、能《のう》、百万石の威勢にかけて、冬、お国もとで雪を凍らせ、道中金に糸目をつけずにこれを江戸ご本邸に運ばせて、本郷のこのお屋敷内の雪室深くへ夏までたくわえ、土用さなかの黄道吉日を選んで柳営に献上するのが毎年の吉例でした。召しあがるのはせいぜいふた口か三口のことであろうが、おあがりになるおかたは八百万石の将軍家、献上するのは百万石の大納言、事が大きいのです。それをずばりと、ただのひとにらみでにらんだ名人の眼《がん》のさえもまた、たぐいなくすばらしいことでした。
しかし、それでなぞが解けきったのではない。第一は、この変死の裏に、なにごとか恐ろしいたくらみと秘密があるかないかの詮議《せんぎ》です。恐ろしい秘密があるとしたら、なにもののしわざか、第二
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