かと影が近よりました。
年のころ二十八、九の若い武家です。
なれなれしげに名人のそばへ歩みよると、なれなれしげに呼びかけました。
「さきほどは失礼、めぼしがおつきか」
「さきほどと申しますると?」
「もうお忘れか。けさほど駆け込んでいったは、このてまえじゃ」
「ああ、なるほど、そなたでござったか。貴殿ならばなおけっこうでござる。どうやらめぼしがつきましたが、ちと不思議なものでやけどをしておりますゆえ、お尋ねせねばなりませぬ。お隠しなさらば詮議《せんぎ》の妨げ、隠さずにおあかしくださりませよ。よろしゅうござりましょうな」
「申す段ではござらぬ。お尋ねはどんなことじゃ」
「加賀さまの献上雪は、たしか毎年いまごろお取り寄せのように承っておりますが、もうお国もとからお運びでござりまするか」
「運んだ段ではない。知ってのとおり、あれは日中を忌むゆえ、夜道に夜道をつづけて、ちょうどゆうべこの裏門から運び入れたばかりじゃ」
「やっぱりそうでござりましたか。たぶんもうお運びとにらみをつけたのでござりまするが、ようようそれでなぞが一つ解けました。おどろいてはなりませぬぞ。この変死人は、その雪で死にま
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