た一面にぬれているのです。
「さてな。大きにおかしなやけどだが、ねえ、おい、伝あにい」
「へえ……?」
「今は冬かい」
「冗、冗、冗談いうにもほどがあらあ。とぼけたことをいうと、おこりますぜ、ほんとうに! 一月十五日、冬のまっさいちゅうに決まっているじゃねえですかよ」
「江戸は降らねえが、さだめし加賀あたりは大雪だろうね」
「なにをべらぼうなこというんです。加賀は北国、雪の名所、冬は雪と決まっているんだ。加賀に雪が降ったらどうだというんですかよ」
「べつにどうでもないが、おかしなやけどなんでね、ちょっときいてみたのさ。さてな、どのあたりかな」
突然、不思議なことをいって、伸びあがり、伸びあがり、加賀家の屋敷のもようをしきりと見しらべていたが、なにごとかすばらしい眼《がん》がついたとみえて、さわやかな笑いがのぼりました。
「ウフフ……なんでえ、そうかい。なるほど、あれか。とんでもねえやけどのにおいがしてきやがった。しかし、弱ったな。百万石のお屋敷へ素手でもはいれまいが、どなたかご家中のかたはいませんかのう……」
つぶやくようにいった声をきいて、群れたかっていた群衆のうしろから、つかつ
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