、駆け込み訴訟をしたものは、たしかに加州家の者と名のっているのに、その家中の者がひとりもいないとは奇怪千万でした。
「よしよし、なんぞいわくがあろう。こもをはねてみな」
気味わるそうにのけたのを近よって、じっとみると、変死人がまた奇怪です。
羽織、はかま、大小もりっぱな侍でした。
しかも、その死に方が尋常ではない。
手、足、顔、耳、鼻、首筋、外へ出ている部分は、端から端まで火ぶくれとなって、一面にやけどをしているのです。
「さあいけねえ。たしかにこいつアやけどだ。やけどだ。道ばたにれっきとしたお侍が、やけどをして死んでいるとは、なんたることです。とんでもねえことになりやがったね。気をつけなせいよ。あぶねえですぜ。眼《がん》をつけ違いますなよ」
たちまちに伝六が目を丸めました。
まことや奇怪千万、路傍にれっきとした二本差しが、やけどを負って死んでいるとは、古今にも類のないことです。
しかし、不思議なことには、全身火ぶくれとなって焼けただれているのに、着ている着物には焼け焦げ一つ見えないのでした。ばかりか、はかまも、羽織も、ぐっしょりとぬれているのです。死体のまわりの道も、ま
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