そこまで歩いていっておくんなさいましよ。――いい天気だね。たまらねえな。小春日や……小春日や……伝六女にしてみてえ、とはどうでござんす……」
行くほどに、急ぐほどに、町はやぶいり、日はぽかぽかびより、――湯島のあたり突く羽子の音がのどかにさえて、江戸はまたなき新春《にいはる》でした。
2
絵図面どおりに、引祥寺のわきから小道を折れて、加賀家裏門の前までいってみると、あたりいっぱいの人にかこまれて、なるほどその裏門の左手前に、新しいこもをかぶった長い姿がころがっているのです。
しかし、出張っているのはもよりの自身番の小役人が三人きりで、加賀家のものらしい姿はひとりも見えないのでした。
「ちと変じゃな。ずっとはじめから、おまえらだけか」
「そうでござります。加州さまのかたがたは顔もみせませぬ。知らせがあって駆けつけてから、わたくしどもばかりでござります」
不思議というのほかはない。変死人の素姓身分はどうあろうとも、たとい路傍の人であろうとも、このとおり屋敷の近くに怪しい死体がころがっているとしたら、せめて小者のひとりふたり、見張らせておくがあたりまえなのです。ましてや
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