つ見えんじゃねえか。下男がひとり、依田の大将が一匹、人の数までがちゃんとわかるよ。そっちの法被《はっぴ》は下男のやつだ。こっちの刺し子は依田のけいこ着だ。いわば、おまえとおいらのようなもんさ。――そら! そら! いううちに、変な声が聞こえるじゃねえか。やもめばかりの住まいに珍しい女の声だ、じっと聞いてみな」
ことばはわからなかったが、何かかん高に泣き叫んでいるような女の声が、切れぎれにふたりの耳を刺したのです。
「さあ、十手だ。どたばたしねえで、ついてきなよ!」
同時に、つかつかとそこのお勝手口から押し入りました。
「だ、だ、だれだ、だれだ。変なところから黙ってはいりゃがって、どこのやっこだ」
果然、下男とおぼしき若いやっこが飛び出してきて武者ぶりつこうとしたのを、相手になるような名人ではない。
「おまえなんざ役不足だ。用のすむまで、ゆっくり涼んでいろい」
ダッと、あっさり草香の当て身をかまして寝かしておくと、声をたよりに奥座敷を目ざしました。
いるのです。いるのです。
今まで何かふらち至極な責め折檻《せっかん》でもされていたとみえて、髪はくずれ、すそのあたりもあらわに乱れ
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