の師範! そうか! とうとう本においがしてきやがったな。――ねえ、あにい」
「へ……?」
「とぼけた返事をするない。桂馬《けいま》がかりの詰め手というのは、こういうふうに打つんだ。気をつけろい」
「さようでございますかね」
「なにがさようでございますかだ。十手を用意しな! 十手を! まごまごしていたら、依田流のねらい矢でやられるというんだよ。こわかったら小さくなってついてきな」
なぞからなぞへつづいていた雲の上に、突如として一道の光明がさしてきたのです。時を移さず、名人主従は、教えられた弓道師範依田重三郎の住まいを目ざしました。
5
しかし、すぐに押し入るような右門ではない。
すべての秘密を握っている依田重三郎は、ともかくも加賀百万石おかかえの弓道師範役なのです。うっかり乗りこんでいったら、加賀百万石をかさにきて、さかねじを食わせるかもしれないのです。二つにはまた弓そのものにもゆだんがならないのでした。よしや身には、草香流、錣正流《しころせいりゅう》、江戸御免の武器があったにしても、万に一、ぷつりとやられたら、張り子やどろ細工の人間ではない、ばかりか、伝六というもっ
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