とはお相弟子《あいでし》、ご先代松坂兵衛様のご門人でござります」
「いま浪人か!」
「いいえ、やはり当加賀家へご仕官なさいまして、ただいまはご祐筆頭《ゆうひつがしら》でござります」
「なに! ご祐筆頭! そろそろ焦げ臭くなってきやがったな。ひとり身か!」
「いいえ、奥さまもお子さまもおおぜいござります」
「それだのに、なんだとて人の奥方をさらったんだ」
「と存じまして、わたくしもじつはいぶかしく思うているのでござります。りっぱな奥さまがござりましたら、ふたりも奥さまはいらないはずでござりますのに、どうしてあんな手ごめ同様なことをなさいましてさらっておいでなされましたやら、だんなさまの変死だけでも気味がわるいのに、おりもおり、気に入らないことをなさるおかたでござります」
「どこへさらっていったかわからねえか」
「たぶん――」
「たぶんどこだ」
「日ごろから、特別になにやらお親しそうでござりますゆえ、この裏側のお長屋の依田《よだ》重三郎様のお宅ではないかと思われますのでござります」
「何をやるやつだ。やっぱり祐筆か」
「いいえ、依田流《よだりゅう》弓道のご師範役でござります」
「なにッ、弓
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