とあるところを見ると、あるいはおこよと、矢を射かけられたあの同役の若侍とが、夫の目を忍ぶ仲にでもなっておって、その不義を押し隠すために、夫を同役のあの若侍にあやめさせ、あやめたその若侍をまたおこよが射殺し、すべてをやみからやみへ葬っておいて、すべての秘密を包みながら、この遺書どおり、死を急いだとも考えられるのでした。
「参ったね。桂馬《けいま》はあるが、打ちどころがねえというやつだ。え? だんな、ちがいますかい」
そろそろと始めたのは鳴り男です。
「正月そうそう、だんなをバカにしたくはねえんだが、あんまりいばった口をきくもんじゃねえんですよ。さっきなんとかおっしゃいましたね。からめ手詮議がどうのこうの、桂馬がかりが十八番のと、たいそうもなくいばったお口をおききのようでしたが、自慢なら自慢で、早く王手をすりゃいいんだ、王手をね」
「…………」
「くやしいね。恥ずかしいなら恥ずかしいと、はっきりおっしゃりゃいいんだ。てれかくしに黙らなくともいいんですよ。だいいち、将棋が桂馬ばかりでさせると思っていらっしゃるのがもののまちがいなんだ。金銀飛車角、香《きょう》に歩《ふ》、あっしなんぞはただの
前へ
次へ
全41ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング