きにおわびいたすべく候ともしてあるのです。そのうえ、わが罪の折檻は無用にござ候という文字さえ見えました。
どう考えても、妻女のおこよが、なんの罪か自分の罪を恐れ恥じて、みずからいのちをちぢめた書き置きとしか思えぬ紙片なのです。
「なるほど、そうか」
ふりかえると、いまだに青ざめながらうち震えている女中に問いかけました。
「そなた、この書き置きにおどろいて、ものもいえなかったんだな。え? そうだろう。違うかい」
「そ、そ、そうでござります……」
「これを見ると、もうとうに死んでおるはずじゃが、この家のどこかに死体があるか」
「いいえ、うちには影も形も見えませぬ。この書き置きを残して、どこかへ家出なさいましたゆえ、びっくりしていたところなのでござります」
「そうか。死出の旅に家出したというか、出かけたはいつごろだ」
「ほんのいましがたでござります」
「出かけるところを見ておったか」
「いいえ、それが不思議でござります。こんなことになりましたら、もう申しあげてもさしつかえないでありましょうが、うちのだんなさまが、あの表で気味のわるい死に方をなさいましたゆえ、びっくりいたしまして、わたくし
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