、下手人の詮議がだいじだ。そっちへ引っこんでいな」
知りたいのはまずその素姓です。ぼうぜんとしてたたずんでいる加賀家の若侍のそばへ歩みよると、なにか手づるを引き出そうというように、やんわりと問いかけました。
「なにもかも正直におあかしくだされましよ。けさほど八丁堀へわざわざおいでのことといい、こうして今ここへお立ち会いのご様子といい、特別になにかご心配のようでござりますが、貴殿、このご仁とお知り合いでござりまするか」
「同役じゃ」
「なるほど、同じ加賀家のご同役でござりまするか。このおきのどくな最期をとげたおかたは、なんという名まえでござります」
「松坂|甚吾《じんご》とおいいじゃ」
「お役は何でござります」
「奥祐筆《おくゆうひつ》じゃ」
「奥祐筆……! なるほど、そうでござりましたか」
名人の胸にぴんとよみがえったのは、朝ほどのあの絵図面の字のうますぎたことでした。どうやら、本筋のにおいがしかけてきたのです。
「なるほど、ご祐筆とあっては、ご兄妹《きょうだい》でござりまするかおつれ合いでござりまするか知りませぬが、お身よりのご婦人も字がうまいのはあたりまえでござりましょう。あの
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