絵図面をお書きになったご婦人は、この松坂様の何に当たるおかたでござります」
「あの書き手を女とお見破りか!」
「見破ったればこそお尋ねするのでござります。お妹ごでござりまするか」
「いいや、ご内儀じゃ」
「ほほう、ご家内でござりまするか。お年は?」
「わこうござる」
「いくつぐらいでござります」
「二十三、四のはずじゃ」
「お顔は?」
「上の部じゃ」
「なに、上の部!――なるほど、美人でござりまするか。美人とすると――」
 事、穏やかでない。いくつかの不審が、急激にわきあがりました。
 第一、夫がここで変死をしているというのに、妻なる人がちらりとも顔すら見せないことが不思議です。
 妻さえも顔を見せないというのに、目の前のこの若侍が、ただの同役というだけでかくのごとくに力こぶを入れているのが不思議です。
 第三に不審は、いまだに加賀家家中のものがひとりも顔をみせないことでした。これだけ騒いでいるのに、しかも変死を遂げているのは奥仕えの祐筆であるというのに、その加賀家が知らぬ顔であるという法はない。がぜん、名人の目は光ってきたのです。
「雪が口をきかねえと思ったら大違いだ。そのご内室に会
前へ 次へ
全41ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング