たねえんだ。行くんですよ! 浅草へ!」
「へへえ。おまえがな。年じゅうやぶいりをしているようだが、きょうはおまえ、よそ行きのやぶいりかえ」
「おこりますぜ、からかうと! ――ええ、ええ、そうですとも! どうせそうでしょうよ。なにかというと、だんなはそういうふうに薄情にできているんですからね。けれども、物事には気合いというものがあるんだ、気合いというものがね。よしやあっしが年じゅうやぶいり男にできていたにしても、いきましょ、だんな、どうですえと、羽をひろげて飛んできたら、よかろう、いこうぜ、主従は二世三世、かわいいおまえのことだ、――そうまではおせじを使ってくださらねえにしても、もちっとどうにかいい顔をしたらいいじゃござんせんか、いい顔をねえ」
「…………」
「え! だんな! どうですかよ、だんな!」
「…………」
「くやしいな! いかねえんですかい、だんな! え! だんな! どうあっても行かねえというんですかい」
 だんだんと声をせりあげながら、だんだんと庭先から顔をせりあげて、ひょいとのぞいてみると、むっつりの名人がおかしなものをこたつの上にひろげて、しきりとのぞいているのです。
 
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