半紙一枚に書いた絵図面でした。
ここのところ本郷通り。
ここかど。
こちらへい。
ここかど。
隣、インショウジ。
ここ加州家裏門。
半紙いっぱいに書いた見取り図の要所要所へそういう文字を書き入れて、ここ加州家裏門としるしたその門の横の道に、長々と寝そべっている人の姿が見えました。
「はてね。すごろくにしちゃ上がりがねえようだが、なんですかい、だんな」
「…………」
「え、ちょっと。これはなんですかよ。人が寝ているじゃねえですか、人が……」
「うるさいよ」
「いいえ、うるさかねえ、だんな。事がこういうことになりゃ、やぶいりはあすに日延べしたってかまわねえんだ。本郷の加州家といや加賀百万石のあのお屋敷にちげえねえが、その裏門の人はなんですかい、人は! だれがそんなところへ寝かしたんですかい」
「知らないよ」
「意地わるだな。教えたっていいじゃねえですかよ」
「でも、おまえ、おいらは薄情だといったじゃねえか。どうせわたしは薄情さ、のぞいてもらわなくたっていいですよ」
「ああいうことをいうんだからね。物は気合い、ことばははずみのものなんだ。ついことばのはずみでいっただけなんですよ
前へ
次へ
全41ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング