はどこからひねり出したんだ。あの鈴新ののれんを出した元手の金はどこから降ってわいたんだ」
「それはその、元手はその……」
「その元手はどこの小判だ。まさかに、一文なしじゃあれだけの店は張れめえ。しかも、不思議なことには、ご主家筋の鈴文はあのとおり落ちぶれて、千百三十両という大穴があいているというんだ。変な穴じゃねえか。なあおい、新助おやじ!」
「…………」
「なにを急に黙りだしたんだ。おいらが不審をうったのはその小判、千百三十両という大穴だ。小判はものをいわねえかもしらねえが、おいらの目玉はものをいうぜ」
「…………」
「どうだよ。おやじ! 聞きゃ鈴文店で子飼いからの番頭だという話だ。その番頭がひと月まえに暇をとって新店をあける。あけたあとで千百三十両の大穴がわかった。わかったその大穴は、わたしが相場にしくじってあけたんでござんす、いいやおまえじゃねえ、おれが使い込みの大穴だと、世にも珍しい罪争いが起きているというじゃねえかよ。争っているのは、ふたりとも男ざかりの手代だ。ひとりは三十四、ひとりは二十八、その若いほうの手代の左ぎっちょの梅五郎のところへ、おまえの娘がこっそりドスを届けたん
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