ふらちなやつめがッ。牢屋づとめをしておる者が科人《とがにん》とぐるになって、なんのことじゃ。ぬかせッ、ぬかせッ。ぬかさずば、もっと痛いめに会うぞッ」
ぴしり、ぴしり、と折檻《せっかん》の手の下るのを、しかし小者は必死と歯をくいしばってこらえながら、白状は夢おろか、あざわらいすら浮かべているのです。
その顔をひょいとみると、ほんのいましがた床屋へいってきたらしい跡が見えました。月代《さかやき》もそったばかりで、髪にはぷうんと高い油のにおいすらもしているのです。
「アハハ……よし。わかりました。痛め吟味ばかりが責め手ではござらぬ。口を開かせてお目にかけましょう。この右門におまかせくだされい」
さえぎるように源内の手からむちをとって投げ捨てると、やにわにちくりとえぐるように浴びせかけました。
「おまえ、今晩あたり、うれしいことがあるな!」
「…………!」
「びっくりせんでもいい。むっつり右門の目は、このとおりなにもかも見通しだぜ。おまえ、きょう非番だろう!」
「…………」
「おどろいているだけじゃわからねえんだ。返事をしろ! 返事を!」
「そうでござんす。非番でござんす」
「だから床屋
前へ
次へ
全38ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング