うがまたばかによい。こぼれるような笑顔《えがお》をつくりながら、こわい名人を名人とも知らないのか、下へもおかない歓待ぶりでした。
「ご両替でございましょうかしら? お貸し金でございましょうかしら? ――お貸し金のほうなら、もう暮れもさし迫っておることでございますゆえ、抵当がないとお立て替えできかねますが……」
「金に用はない。のれんに用があって参ったのじゃ」
ずばりと、切りさげるように一本くぎをさしておくと、やんわりといったものです。
「小判に目が肥えているなら、こっちのほうも目が肥えておろう。この巻き羽織でもようみい」
「まあ。そうでござんしたか。どんなお詮議《せんぎ》やら、朝早くのご出役ご苦労さまでござります。お尋ねはにせ金のことかなんかでございましょうかしら?」
おどろく色もなく嫣然《えんぜん》と笑って、流るる水のごとくなめらかに取りなしました。
「なんのお調べでござんしょう? わたくし、娘の竹というものでござります。わたしでお答えのできないことなら親を呼びますが……」
「おるか!」
「朝のうち一刻《ひととき》は信心するがならわし。あのご念仏の声が親の新助でござります」
「い
前へ
次へ
全38ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング