ひと目にわかる。つら構えからしてにぎやかにできておるからのう。ひと走り様子見にいってくれぬか」
「ようござんす。みなさまこのとおりご陽気になっていらっしゃるんだから、おりましたら、首になわをつけてひっぱってまいりましょう」
 十中八、九いるだろうと思って心待ちにいたのに、だがまもなく帰ってくると、それらしい男の影も姿もないという報告でした。
 不審に首をかしげているとき、帳場の者があわただしくあがってくると、とつぜん不思議なことをいって呼びたてました。
「あごのだんなさまというのは、どなたさまでござんす?」
「あごのだんな?」
「急用じゃと申しまして、ただいま駕籠屋《かごや》がこの書面を持ってまいりました。どのだんなさまでござります」
「アハハハハ。あごのだんななら、あれじゃ、あれじゃ。あのすみであごをなでている男じゃ」
 もちろん、名人のことです。さし出した書面をみると、おらのあごのだんなへ、と書いてある。裏には伝とまたがったような字を書いて、中がまたみごとな金くぎ流でした。
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「急用急用大急用だ。
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伝六大事命があぶ
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