が浮き上がりました。
女です。船宿の裏で見かけたあの金持ちの後家らしい大年増でした。何がうれしいのか、厚ぼったいくちびるに、にったりとした笑《え》みを浮かべて、目が怪しく輝き、その両ほおにはほんのりとした赤みが見えました。
追うように、そのあとからもう一つぽっかりと、同じ内陣の奥から人影が浮きあがりました。
やはり女です。
同時でした。伝六がつんとそでを引いてささやきました。
「ちくしょうッ、あれだ、あいつだ。たしかに、あのお高祖頭巾《こそずきん》の女ですぜ」
「なにッ、見まちがいじゃねえか」
「この目でたしかに見たんです。年かっこう、べっぴんぶりもそっくりですよ」
いかさま年は二十七、八、髪はおすべらかしに、緋《ひ》のはかまをはいて、紫|綸子《りんず》の斎服に行ないすました姿は、穏やかならぬ美人なのです。
肩を並べて拝殿横の渡殿までやって来ると、魅入るような目を向けて大年増に何かささやきながら、暗い裏庭へ送りこんでおいて、合い図のように渡殿の奥をさしまねきました。
同時に、いそいそと渡殿を渡りながら出てきた影は、たしかに十七、八のあのういういしい下町娘です。
待ちうけ
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