てこまかく運ばねえと、とかくしりがぬけるんだ。ある! ある! あのかどにあるのがそうですよ」
 ぐいと大川からこっちへ切りこんでいる小堀《こぼり》のかどの出っ鼻に、なるほど於加田と書いたあんどんが、ゆらめく水に灯影《ほかげ》を宿して見えました。
 むろん、すぐにも詮議《せんぎ》に押し入るだろうと思われたのに、つねに周到綿密、目の光らせどころにそつがないのです。家のまわり、川筋の様子、何か不審はないかと、そこの小陰にたたずみながら目を光らせました。
 同時に、名人のからだが、はっとなったように泳ぎだしました。
 あるのです。
 不思議な船が、大川岸に四|艘《そう》、小堀の中に三|艘《そう》、人待ち顔につないであるのです。
 それもただの不思議ではない。七艘ともにしめなわを張って、どの舟の船頭もまた一様に同じしめなわを腰へ巻きつけ、人目にたたぬように船龕燈《ふながんどう》をそででおおいながら、いまかいまかと舟宿から出てくる客を持ちうけている様子でした。
「ほほう、そろそろとにおってきたな。うなぎのにおいだか、めざしのにおいだか知らねえが、ただのにおいじゃねえようだぜ。引っこんでな! ひょこ
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