そのたびに借りて帰ったものが、いつとはなしに三張りもたまったものに相違ないのです。
「かっぱ野郎、ほえづらかくなよ。このとおり、おっかねえうしろだてがおつきあそばしていらっしゃるんだ。駕籠ですかい」
「決まってらあ。一眼去って一眼きたるたアこのことよ。早くしな」
 乗ると同時に、目ざしたのはその深川でした。
 暮れるに早い秋の日はもう落日が迫って、七橋《ななはし》、八橋《やはし》、七堀《ななほり》、八堀《やほり》と水の里の深川《たつみ》が近づくにしたがい、大川端《おおかわばた》はいつのまにかとっぷりと夕やみにとざされました。
 さむざむと冷え渡って冷えは強いが、冷えればまた冷えたで相合いこたつのさし向かい、忍びの夢路の寝物語。はだのぬくみを追って急ぐ男と女の影が、影絵のように路地から路地をぬって歩いて、秋深い辰巳《たつみ》の右左、またひとしおのふぜいです。
「ちくしょうッ、ふざけてらあ。ちょろりと今ふたり、天水おけの陰へかくれましたよ。あんなところでちちくるつもりにちげえねえですぜ」
「そんな詮議に来たんじゃねえ。於加田《おかだ》を捜しているんだ。早く見つけなよ」
「いいえ、物事は総じ
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