これもみんな人づきあいでね。物事は何によらず人並みにやらねえとかどがたつから、おつきあいに行くんですよ。え? だんな。だんなは何もご用はござんせんかい」
「バカだな」
「え……?」
「えじゃないよ。きょうは幾日だと思ってるんだ」
「まさに九月九日、だんなをめえにしてりこうぶるようだが、一年に九月九日っていう日はただの一日しかねえんですよ」
「あきれたやつだ。そんなことをきいているんじゃねえ、九月の九日はどういう日だかといってきいてるんだよ」
「決まってるじゃござんせんか。菊見のお節句ですよ」
「それを知っていたら、今もう何刻《なんどき》だと思ってるんだ。やがて六ツになるじゃねえか。九月の九日、菊見の節句にゃ暮れの六ツから、北町南町両ご番所の者残らずが両国の川増《かわます》でご苦労ふるまいの無礼講と、昔から相場が決まってるんだ。まごまごしてりゃ、遅れるじゃねえかよ」
「じつあそいつに遅れちゃなるめえと思って、ちよっとその質屋へね」
「質屋になんの用があるんだ」
「べつに用があるというわけじゃねえんだが、ちょっとその、なんですよ、じつあ一|張羅《ちょうら》をね」
「曲げたのかい」
「曲げた
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