っているさいちゅうでした。
その人込みをかき分けて、少年は鉄砲玉のように家の中へ駆け込むと、けたたましく叫びました。
「綾《あや》ちゃん、綾ちゃん! 右門のおじさんを連れてきたよ。もうだいじょうぶだぜ。そこをどいちゃいかんぞ! しっかり乗っかっていなよ!」
声のあとからむっつりとはいっていった名人がひょいとのぞくと、不思議な光景が目にうつりました。綾ちゃんと呼ばれたその子が妹にちがいない。八つか九つになるかならずの愛くるしいその小娘が、ふろおけの上に乗っかって、しっかりとふたを押えながら、かめの子のようにばたばたと足を動かしているのです。そのかたわらに敬四郎が父親のなわじりとって、目をむきながら、手下の直九、弥太《やた》のふたりを口ぎたなくしかりつけているさいちゅうなのでした。
「そんな小娘ひとりもてあまして、なんのこった! おろせ! おろせ! 早くおろさんか」
「口でいうようにそうたやすくは降りんですよ、なんしろ、死に物狂いになってるんだからね。こら! 早くおりんか! いうことをきかんと、痛いめにあうぞ!」
足を持とうとすれば足でけとばし、手を持とうとすれば手でひっかいて、小娘
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