お米屋だよ」
「女のきょうだいがあるな」
「ああ、妹がひとりあるよ」
「へへえ。おどろいたもんだね――」
 珍しいことではないのに、たちまちお株を始めたのは伝六です。
「毎度のことだから感心したくねえんだが、ちっとあきれましたね。目に何か仕掛けがあるんですかい」
「あたりめえだ。南蛮渡来キリシタンのバテレン玉ってえいう目が仕掛けてあるんだよ。子どもの着物をよくみろい。米のぬかがほうぼうについているじゃねえか。足もよくみろい。女の子のぞうりをはいているじゃねえか。だから、米屋のせがれで女のきょうだいがあるだろうとホシをさしたのに、なんの不思議があるんだ。米つきばったのようなかっこうをしてへたな馬をけいこするひまがあったら、目のそうじでもやんな。右門のおじさん行ってやるぞ、先へ飛んでおいき!」
 ひゅうとむちを鳴らして、馬をお馬場の向こうへ追い返しておくと、まっしぐらに駆けだした少年を道案内に立てながら、その場に米屋へ向かいました。

     2

 道のりにして四町とはない。小さな米屋だが、米屋に相違ないのです。騒ぎを聞きつけたか、店の表は駆け集まった町内の者たちがわいわいとひしめき合
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