の不審牢へあの米屋の親子をたたき入れて、しきりと責めたてていたさいちゅうなのでした。
声はない。ずいと牢格子《ろうごうし》の中へはいっていくと、さみしく笑っていったことです。
「あいかわらず荒療治がおすきだな。目違いもいいかげんにしないと、のろい殺されますよ。増屋のおやじ! きょうだいを連れて早くかえりな」
「なにをするんだ。なにをかってなまねをするんだ」
いきりたとうとした敬四郎の目の前へ、
「このとおり、みやげがござる。お礼でもいわっしゃい」
駕籠からふたりをつれ出すと、静かにさしつけていいました。
「増屋のおやじ。つまらねえ隠しだてをするから、目違いもされるんだ。なぜ、あのとき小判を埋めにいったと、正直に白状しなかったんだ」
「あいすみませぬ。女房の前身も前身、金も金でござりましたゆえ、世間に恥をさらしてはと、つい口が重かったのでござります……」
「そんなことだろうと思った。これからもあるこったから、隠しごとも人を見ておやりよ。そちらの敬だんなのようなおかたがいらっしゃるんだからな。角兵衛の子どもたちは、死にたいか、生きておりたいか」
「生きておりとうはございませんけれど、
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