「帰りは何刻ごろだ」
「いつどちらへ流しに出ておりましても、暮れ六ツかっきりには必ず帰ってまいります」
「じゃ、ひとつおまじないをしておこうよ。寝泊まりしているへやへ案内せい」
どんどんはいっていくと、やにわにいったものです。
「亭主、子どもたちの着物を出せ」
「は……?」
「変な顔しなくたっていいんだよ。角兵衛たちみんな着替えを持ってるだろう。どれでもいい、その中からふたり分出せ」
あちらの梱《こうり》、こちらの梱をあけて、山のように積みあげた着替えの中から、手に触れたのをめくら探りに二枚つまみあげると、くるくると小ひもで結わえて、そこの鴨居《かもい》のところへぶらりとつりさげながら、取りよせたすずりの筆をとって、さらさらと不思議な文句を懐紙に書きしたためました。
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「字の読める者がみんなに読んできかせろ。ゆうべ柳原の米屋の女房を絞めころしたやつらは、この着物の持ち主と決まった。おしろいのにおいがしみついているのがなによりの証拠だ。お番所の手が回ったぞ。伝六というこわいおじさんがひったてに来る。みんな気をつけろ」
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