八方へ流れ出たあとなのでした。行き先は八百八町のどこへ行ったかわからないのです。その数は六十人からあるのです。その中から下手人ふたりをかぎ出すのです。すでにふたりの子どもをかぎ出すことからして難事なところへ、行った先散った先が雲をつかむような八百八町とすれば、じつに難事中の難事でした。
「ちくしょうめッ。めんどうなことになりやがったね」
 たちまちに伝六のあわてだしたのはあたりまえです。
「なんしろ、八百八町あるんだ、八百八町ね。日に一百一町ずつ捜したって八日かかるんですよ。え? ちょっと。何かいい手はねえんですかね。王手飛車取りってえいうようなやつがね」
「…………」
「あっしが下手人でござんす。あっしが絞め殺しましたと首に札をつけているわけじゃねえんだからね。まごまごしてりゃ、ことしいっぱいかかりますぜ」
 やかましくさえずりはじめたのを聞き流しながら、じっとうち考えていた名人が、何か名案を思いついたとみえて、とつぜんウフフとばかり笑いだすと、のっそりと丸屋へはいっていって、穏やかにきき尋ねました。
「おまえのところへ泊まってる角兵衛獅子どもはいくたりだ」
「二十六人でござります」
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