ふいっと今それで思いついたんだ。ホシは角兵衛獅子《かくべえじし》だよ」
「カクベエジシ?」
「ぴょこんと起き上がる角兵衛獅子さ。身の軽い子どもだからただの曲芸師かと思ったが、まさしく角兵衛のお獅子《しし》さんにちげえねえよ。かどわかされて売られた子どもが、恨みのあまりやった細工に相違ねえ。一年ぶりであいつらがまた江戸へ流れ込んだきのうきょうじゃねえかよ。あっちこっち流して歩くうちに、かどわかしたおマキを見つけて、いちずの恨みにぎゅうとやりました、といったところがまずこのなぞの落ちだ。急がなくちゃならねえ、早くついてきな」
ひたひたと駕籠はその場に走りだしました。
5
目ざしたのは、柳原お馬場に近い神田の旅籠町《はたごちょう》です。
角兵衛獅子の宿は、軒を並べて二軒ある。
越後屋《えちごや》というのが一軒、丸屋というのが一軒。秋から冬にかけてのかせぎ場に、雪の国からこの江戸へ流れ出してきている角兵衛獅子は、年端《としは》の行かぬ子どもだけでもじつに六十人近いおびただしい数でした。
しかし、乗りつけたときは、すでにもう二軒とも、角兵衛獅子の群れが親方に伴われて、四方
前へ
次へ
全44ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング