疑雲はおのずから解けてくるのです。
 名人の手は、しきりとあごのあたりを去来しつづけました。
「うれしいね。それが出ると、峠はもう八合めまで登ったも同然なんだからな。え? ちょっと。伝六もてつだって、あごをなでてあげましょうかい」
「…………」
「やい、やい、松長。そんなにきょとんとした顔をして、不思議そうにだんなのあごをのぞき込まなくともいいんだよ。だんなは今お産をしているんだ、お産をな。気が散っちゃ産めるもんじゃねえ。じゃまにならねえように、その顔をそっちへもっと引っ込めていな!」
 しかし、そうたやすく推断がつくはずはない。ともかくも生きている子どもを盗んで売るのであるから、いずれ売った先も明るい日の照る世界ではないのです。
「旅芸人か、曲芸師……?」
「身の軽い子どもとすれば曲芸師?」
 ポーン、ポーンと隣のへやから、松長の子分たちのもてあそんでいるさえたつぼ音が聞こえました。耳にするや、むっつりと立ち上がって、つかつかとはいっていくと、不意にいったものです。
「ばくちかい。おいらに貸しな」
「こいつを? あの、だんなが……?」
「そうさ。びっくりせんでもいいよ。さいころの音は
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